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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)369号 判決 1967年8月25日

上告人

木村ゑみ

他五名

代理人

石川惇三

被上告人

木村正相続人

木村勝

代理人

信正義雄

主文

本件上告を棄却する。

但し、原判決の当事者の表示中「被控訴人木村正」とあるを「被控訴人木村正相続人木村勝」と更正する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人石川惇三の上告理由第一点について。

被上告人は、本件家屋を明治二五年家督相続により先代から取得したものであり、大正七年当時これを木村信に贈与したことがない旨の原審のなした事実認定は、原判決挙示の証拠および証拠説明により、首肯できないものではなく、原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

同第二点について。

昭和七年当時から、あるいは同一八年四月から木村信が本件家屋を自主占有したものでない旨の原審のなした事実認定は、原判決挙示の証拠および証拠説明に照らして首肯できないものではない。所論は、原判決の認定事実と異なつた事実に基づく独自の見解であり、原判決には所論の違法はない。論旨は採用の限りでない。

同第三点について。

被上告人は信に対し、本件家屋を昭和一八年四月、期限を定めず、信が将来他に転居し得るに至るまでの間、その居住の用に供することを目的として、黙示に使用貸借したものである旨の原審のなした事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないものではない。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

同第四点について。

民訴法八五条は訴訟代理権は本人の死亡によつて消滅しないと規定しているが、これは新しい正当な当事者の代理人として任務を続行させる趣旨と解すべきである。したがつて、もとの当事者が上訴の特別授権をしているときは、その授権事項の完了するまでは、代理人ある間ということになつて、たとえ、委任した当事者にき死亡の事由が生じても、訴訟追行者なきに帰するということにならないから、手続を中断する必要はない(同法二一三条)。この場合には当事者の変動はあるが、中継受継の手続を省略しただけであるから、判決には当事者として新当事者を表示すべきであり、旧当事者を表示しているときには、判決を更正すべきである(同法一九四条)。

これを本件についてみるに、被控訴人であつた木村正は昭和三九年六月二四日死亡したが、同人が控訴審で提出した本件の委任状においては、控訴上告の権限をその代理人信正義雄に与えておること(上告の代理権を与えているから、相手方からなされた上告に対して応訴する権限を当然含むと解せられる。)、木村正の死亡により、その妻木村勝が相続して本件家屋の所有権を取得したこと、そして、本件の原審口頭弁論は昭和四〇年八月二五日終結されたものであることは、いずれも本件記録上明らかである。そうすれば、前記説示に照し、本件については、木村正の死亡にも拘らず訴訟手続の中断受継は生ぜず、ただ当事者として、「木村正」に代えて相続人の「木村勝」を掲げれば足りる場合と解すべきである。したがつて、木村正は死亡し、その訴訟代理人もなくなつているのに、木村正を被控訴人としてなされた原判決は効力を生じないとの所論の理由ないことは明らかである。論旨は採用できない。ただ原判決は、右のとおり、新当事者を表示すべきであるのに、誤まつて旧当事者を表示しているから、民訴法一九四条により、職権で同判決の当事者の表示中「被控訴人木村正」とあるを「被控訴人木村正相続人木村勝」と更正する。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

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